漫画『青年ナポレオン』長谷川哲也
・作品情報
『青年ナポレオン』 長谷川哲也
月刊COMICトムプラス 潮出版社
1999年5月号~2000年12月号(全20話)
表紙2回(1999年5月号、2000年2月号)
巻頭カラー1回(1999年5月号)
計609ページ 単行本収録:無し
・あらすじ
1805年、少年時代を過ごしたブリュエンヌ幼年学校を訪れる皇帝ナポレオン。
荒廃した学校で何故か当時のままに手入れをされた『皇帝の花壇』を見つけ、ナポレオンは秘書ブーリエンヌと語らい記憶を辿り始める。
幼年学校時代の回想後は革命勃発まで時間が進み、パオリとの決別、トゥーロン攻略、ロベスピエール処刑、パリ市街での王党派への砲撃を経て、最後はイタリア遠征におけるロディ橋の勝利の後、呼び寄せたジョゼフィーヌを自ら迎えるシーンで終了している。
・登場人物(主に同作者『獅子の時代』との相違点について記述)
ナポレオン
説明不要のぼくらの皇帝陛下(皇帝なのは1話のみ)。
ジョゼフィーヌ
未来の皇妃。連載中顔がコロコロ変わっている(画像は最終話の一番美人なカット)。
ブーリエンヌ
ナポレオンの秘書。幼年学校の同級生。
ジュノー
トゥーロンの廃屋でナポレオンと出会う点は『獅子の時代』と同じ。ほとんど台詞がないが、口調は普通。
マルモン
トゥーロン攻略戦以降ナポレオンに付き従う狙撃の名手。
『獅子の時代』と違い、ジョゼフィーヌを説得する役をさせられロディの突撃に参加できなかった。
ミュラ
未来のナポリ王。ちょっと目を離すと人を斬ったり殴ったりしている。
ベルティエ
参謀。ヴィスコンティ夫人に傾倒する1カットあり。
オージュロー
本作では口調がまともで、ちゃんと制服も着ている(むしろオシャレであり、史実寄り)。
マッセナ
石鹸カッターを入手できなかったためか、強欲の赤マント…と呼べるようなハジけたエピソードは無し。
ロベスピエール
オプションの犬と鳥は登場せず。童貞発言も無し。10話で退場。
サン=ジュスト
たまにサン=ジェストと誤植されている。
10話で突如バキみたいな絵柄になって暴れまくった。
フーシェ
リヨンでの活躍は無く、国王処刑投票での風見鶏シーンも無し。
ロベスピエール処刑までの暗躍も描写は乏しく、子供の墓参りエピソードもカット。
陰謀キャラだがあまり凄みが感じられないという結果に。
バラス
包帯や義手や投げナイフといった面白ギミックは一切無し。
前半はロベスピエールに、後半はナポレオンにただビビっている。
ビクトル軍曹
たぶん別人二十八号。
・感想
『獅子の時代』と比べると登場しないキャラも多く、軍人としてはランヌ、ダヴー、ベシェール、スーシェ、ヴィクトール、セリュリエ、ルクレール、それ以外ではタレイランやクートン、敵ではネルソンなどが出ません。
イタリア遠征の敵将も無個性な顔の名無し将軍です。
全体として史実のエピソードを「常識的な範囲内で」膨らませて漫画にしている印象が強いです。
『獅子の時代』と共通するエピソードも多くあるのですが、例えば「恐れを知らぬ男たちの砲台」の話では、男たちが顔を見合わせてから先を競う描写はなく、ただ「いい名前だ気に入った」と兵士がナポレオンに言うにとどまり、ウジェーヌが父親の剣の返却を求める話では、ミュラが出てこないため「広報にも使える話だ」と普通に剣を返してしまいます。
革命家や元帥たちのキャラもそれほど深くは掘り下げられず、行動・言動ともにおとなしめです。
ミュラは『青年ナポレオン』でも権力志向の伊達男なのですが、それだけという印象でした。
『獅子の時代』では女にお前は空っぽだと言われ、それを自分でも自覚している風で、野心と現実のギャップに苦悩するような内面の弱さが見え、人間味が出てきたように思います。
『青年ナポレオン』も単体で読むと安定した面白さがあるのですが、改めて『獅子の時代』と読み比べると、読者を引き込む力が格段に増しているのが分かります。
個人的には資料にきちんとあたった上で漫画的アレンジを強烈にきかせる『獅子の時代』方向への転換は、英雄達の偉大さと、何より異常さが分かりやすく伝わるので成功だったんじゃないでしょうか。
ちょうど半分にあたる10話でロベスピエールたちが退場するのですが、
『青年ナポレオン』ではクートンが登場せず、サン=ジュストがバラスに飛び蹴りを浴びせた後、ただ一人素手で奮闘します。
一方の『獅子の時代』ではクートンとサン=ジュストが銃砲の火力でロベスピエールを守ろうとするものの、
奮闘むなしくたかがメインカメラをやられてしまいました。
サン=ジュストと言えば『青年ナポレオン』では、バラスがカルトーを「サン=ジュストが無能な将軍の首を切って回っている、ここにも来るかもな」と嘘で脅して辞めさせデュゴミエと交代させるのですが、『獅子の時代』ではバラスと一緒にサン=ジュストがやって来て、数年越しで本当になったりしています。
あと、イタリア遠征中にナポレオンが抜擢した人物の中にビクトルという軍曹がいました。
ビクトルと兵士のやり取りを見て、目端が利きそうだと評価しての人事です。
中隊長ということは軍曹から大尉へ特進ですね。
入手方法ですが、単行本にはなっていないため、雑誌を入手するしかありません。
『1812─崩壊─』掲載のアワーズと同じく、オークション等でセット売りのトムプラスを地道に探すか、国会図書館での複写依頼で妥協するかです。
以前の国会図書館のシステムではたどり着くのが面倒でしたが、今はキーワード検索で「トムプラス」と入れれば、数手で複写依頼画面までいけます。
少年画報社から単行本でも出てくれればとは思いますが、完全版のような『獅子の時代』がある状態で出しても、はせがー先生ご本人が携帯配信の話が来た際に「コピー代すら取れないだろう」と言ってるように、単行本化の採算が取れないのかもしれません。
『1812─崩壊─』の記事でも書きましたが、そういった予測しかされない現状を、『獅子の時代』『覇道進撃』を応援することで変えていくしかありませんね。
ラストページ。
「僕たちは歴史になるんだ!」
この『青年ナポレオン』終了から一年半の後に読み切り『1812─崩壊─』、さらに半年ほどで『ナポレオン 獅子の時代』の連載へと繋がっていきます。
漫画『戦争と平和』岸田恋
家には数年前に出た全6巻の新訳版を積んでありますが、飛ばし読みしたところ格段に読みやすかったので、そのうち全部読もうと思います。
大筋を追うならソ連の映画(別途紹介します……そのうち)がオススメです。
そんなカンジで、原作についてはおぼろげな記憶をメインに書きますので、記述に間違いがあることが予想されます(いつか原作を読み込んだら記事修正する、の意)。
登場人物紹介では概略に加えて、漫画版での扱いについても付記します。
・作品情報
ハイコミック名作11『戦争と平和(上)』
作画:岸田恋 原作:トルストイ 構成:恋塚稔
学習研究社 1985年9月3日発行
192ページ 定価:530円
・作品情報
ハイコミック名作12『戦争と平和(下)』
作画:岸田恋 原作:トルストイ 構成:恋塚稔
学習研究社 1985年10月4日発行
200ページ 定価:530円
・あらすじ
舞台は19世紀初頭の帝政ロシア。1805年のアウステルリッツの戦いから1812年のロシア遠征まで、ナポレオン率いるフランスを相手にした戦争と平和の中、あるロシア貴族たちの興亡と恋愛を描いた群像劇。
・登場人物
ピエール・ベズウーホフ
主人公。ロシア一の大富豪キリール・ベズウーホフ伯の私生児。父に愛され財産と爵位を相続する。
近距離パワー型という設定や、フリーメーソン加入のくだりなど多数のエピソードをカットされる。
アンドレイ・ボルコンスキー
ピエールの親友。妻に先立たれ、その後ナターシャと婚約するも一方的に破棄される。
全てを振り切って立った戦場で致命傷を負い後送。そこで偶然再会したナターシャを赦して死んだ。
妻、妹、父、子の出番がことごとくカットされ、ボルコンスキー家の人間は彼以外登場しない。
そのため原作以上にとことん孤独で暗く、不幸な人物として描かれてしまっている。
ナターシャ・ロストフ
ヒロイン。ロストフ伯爵家令嬢。アンドレイと婚約するがアナトーリにたらし込まれて婚約を破棄。アナトーリにも捨てられ暗い性格に。仕方が無いこととはいえ、心理描写もとばし気味な漫画版では、原作以上に頭の弱い娘に見える。
ニコライ・ロストフ
ナターシャの兄。原作ではソーニャとアンドレイの妹の間でドラマを描く主要な登場人物なのだが、この漫画では出番はほとんどなく、アレクサンドル皇帝を見て頬を赤く染める変なホモにされていた。
エンディングを飾る二組の夫婦たちの一人なのだが、彼の妻となる女性は漫画版には登場すらしないというヒドイ扱い。
ソーニャ
ロストフ家に居候している親戚。幼少の頃よりニコライを一途に想っている。
しかし漫画版ではニコライがらみのロマンスがほとんどカットされているため、出番は少ない。
アナトーリ・クラーギン
ピエールの親戚にして放蕩仲間。
遊びでナターシャを誘惑し、アンドレイとの中を裂く。
原作ではその後アンドレイとお互い致命傷を負った状態での再会シーンがあるのだが、漫画では全削除され、人知れず退場。
エレン
アナトーリの妹。財産目当てでピエールと結婚する。
原作ではあれこれ悪巧みをするのだが、漫画では別居以降はほとんど登場せず、ラストで「死んだ」とだけおざなりに書かれた。
ドロホフ
ピエールの放蕩仲間。気性が荒く、戦場で活躍して昇格してもすぐに問題を起こし降格させられている。
ピエールとの決闘シーンも、ロシア遠征終盤での救出シーンもきちんと描かれ、出番的には恵まれている。
アレクサンドル一世
ロシア皇帝。頭髪の増量は控えめ。出番も少なめ。
ビュックスホフデン
『獅子の時代』でミンチにされたブクスホーデンさん。
本作中でも他のページでは「ブックスホウデン」と書かれたり、オーストリア軍の所属にされたりと、名称も立場も一定しない悲運の将。
ネルソン
イギリスの提督。
ナポレオンがトラファルガーの敗報を聞くシーンで1コマだけ登場。
ナポレオン
説明不要のぼくらの皇帝陛下。
ランヌ
皇帝の
ダヴー
漫画版の影の主人公。
上巻ではアウルテルリッツ、下巻ではロシア遠征全般に登場。
皇帝を抱きしめたりフリアンにヤキモチを焼かれたり、漫画作者の趣味全開。
フリアン
ダヴーと対をなす影のヒロイン。
・感想
きりがないので人物はここで切りますが、この他にもロシア軍はクツーゾフやバグラチオンが、フランス軍ではベルティエやミュラ、スルトにベシェールやネイのほか、サヴァリやセギュール、モランやコンパンなんてところまで出てきます。逆にアンドレイの妻や妹は1コマも出てきません(妻の死に言及するだけ)。
作中で各キャラが描かれたコマ数を算出してみました。
表記は、
人物名:総コマ数(上巻コマ数+下巻コマ数)
と、なっています。
ピエール:256 (112+144)
アンドレイ:138 (84+54)
ナターシャ:96 (24+72)
クツーゾフ:44 (25+19)
アレクサンドル:32 (24+8)
バグラチオン:25 (12+13)
ブクスホーデン:7 (7+0)
バルクライ:13 (0+13)
ネルソン:1 (1+0)
ナポレオン:155 (89+66)
ダヴー:198 (36+162)
フリアン:90 (16+74)
ランヌ:75 (75+0)
ミュラ:41 (37+4)
スルト:21 (21+0)
ベシェール:22 (18+4)
ベルチエ:16 (9+7)
ネイ:3 (2+1)
歴史上の大人物であるナポレオンの登場コマ数が主人公並みに多いのはわかりますが、上巻でのランヌ、下巻でのダヴーとフリアンの目立ち方は異常です。
下巻ではダヴーが主人公でフリアンがヒロインです。
戦争・戦闘シーンの描写は、上巻のウルムからアウルテルリッツなどで192ページ中100ページ。
下巻のロシア遠征全体で200ページ中のおおよそ110ページほど。
まさに『戦争と平和』のタイトル通り、全体の半分くらいが戦いですね。
『獅子の時代』でも描かれたアウステルリッツにおけるダヴー率いる右翼部隊の防戦も、
丁寧にページを使って描写されています。
小説『戦争と平和』のコミカライズとしてはちょっと評価に困りますが、ナポレオニック漫画としては一級品だと思います。
入手方法ですが、四半世紀前の絶版漫画であり、流通量も少ないのかネットを巡回しても足で探しても滅多に遭遇できません。
国会図書館でも検索にかかりませんでした。
私は10年近く前に今は亡きEasySeekの探し物登録で入手しましたが、例えばヤフオクではこの7年程で2、3件の出品があっただけで、いずれも高額で終了していた覚えがあります。
最後に、学研の担当や構成の恋塚氏のチェックが緩かったのか、岸田先生の別の趣味も漫画内に散見されます。
ナポレオンがランヌを看取るシーン。
ティルジットの和約でナポレオンとアレクサンドルが抱擁するシーン。
巻末のおまけカット。
男の娘ならいけるんだが。
漫画『1812─崩壊─』長谷川哲也
岸田恋先生の『戦争と平和』の紹介記事は、異常にぶ厚い原作との比較に時間がかかっています。
これ以上更新をサボるのもまずいので、読み切りの中からこちらを先に紹介。
・作品情報
『1812─崩壊─』前編 長谷川哲也
YOUNGKING アワーズ 2002年7月号 少年画報社 2002年
32ページ 単行本収録:無し
※2022年2月25日、少年画報社から電子版で単品販売が始まりました
(Kindle,honto等で買えます)
・作品情報
『1812─崩壊─』後編 長谷川哲也
YOUNGKING アワーズ 2002年8月号 少年画報社 2002年
24ページ 単行本収録:無し
※2022年2月25日、少年画報社から電子版で単品販売が始まりました
・あらすじ
1812年6月、フランス帝国がロシア領に侵攻、大遠征が始まる。
それは世界最強を謳う大陸軍の崩壊の始まりでもあった。
・登場人物
ビクトル伍長
大陸軍古参兵。
遠征に際し、予備の靴を4足用意した上、布を巻いて長持ちさせる工夫をするなど、周到な性格。
仲間に対する基本的な面倒見はいいが共倒れになるような甘さは無く、落伍者は見捨てる。
シェット
志願したての新兵。頭が回り、遠征の補給上の問題点を批判する。
ルスタム・レザ
皇帝の番犬。
エジプト遠征の中でナポレオンに献上され、以後忠義を尽くす。
ナポレオン
説明不要の僕らの皇帝陛下
ベルティエ
フランス帝国元帥。
会議シーンで1コマだけ登場。
アレクサンドル一世
ロシア皇帝。小さく1コマだけ登場。
増毛しおって。
・感想
読み切りのため、状況の説明のためのみにページは割かず、兵士同士の会話や過酷な行軍描写をポイントを絞って印象的に描くことで、当時の軍隊の置かれた状況が良く分かるようになっています。
この辺りの構成の上手さはベテランの貫禄を感じます。
道中、遠征の無謀さを非難するシェットに対してビクトルは「お前は新兵のくせに頭が良すぎる。だから余計なことばかり考える」と忠告し、なおも言い募ろうとするシェットをこう一喝し黙らせます。
獅子の時代、覇道進撃でもおなじみのフレーズは読み切りのころから使われていました。
しかし不平を並べたあげく誰かに怒られ言わされるならともかく、自らこの言葉で新兵を叱咤するなど、こいつは本当にビクトルなんでしょうか?
とりあえず『ビクトル?』と疑問符付きで呼ぶことにします。
この後ビクトル?は仲間の死に憤りナポレオンに詰め寄って見せ、獅子の時代エジプト遠征編でダヴーと二大怪獣大決戦みたいな互角の破壊力を見せてくれたあのルスタム・レザに切りつけられてしまいます。
ところが、出てきたレザとサーベルで見事に切り結んだあげく、反撃して壁を壊す勢いで片手の突き出しをくらわせたりします。
その後逆転されるものの、十分すぎる戦闘力。なんということでしょう、ビクトル?が普通に強いです。
入手方法ですが、アワーズは国会図書館での複写依頼が可能です。
私は1996年くらいの高港先生の漫画を依頼して全ページ届きました。
ただし、見開きを押し付けてのコピーとなるので、のどの部分は歪んでおり、読めればいいというレベルです。
雑誌自体を入手したい場合、古書店などでも探しにくいため、ヤフオク等で何年分かまとめ売りされたりしているのを探すのが現実的でしょうか。
はせがー先生と少年画報社にお願いして単行本を出してもらうのが良いかもしれません。
単行本がないと言えば『青年ナポレオン』もそうですが、獅子の時代の外伝でも、ミュラ外伝だけは単行本に収録されていません。
※2022年2月25日に電子版で単品販売が始まりました(Kindle,honto)
獅子の時代のコミックスは出し終わってしまったので、覇道進撃のコミックスに載せてくれるのを期待するしか。
『青年ナポレオン』を3分冊くらいで出して、他の読み切りを各巻末に入れてくれるのが個人的にはベストだと思うのですが、結局、連載の単行本の売上次第な気がします。
漫画『槍騎兵マリア』岸田恋
まずブログで書いて、加筆や修正の上でホームページにまとめていく方針です。
漫画については、単行本化されていなかったり、絶版で電子出版もされるあてがなかったりと、入手困難なものが多いのですが、この情報が同好の士への一助となれば幸いです。
まずは有名どころから。
・作品情報
『槍騎兵マリア』 岸田恋
コンバットコミック 1号 日本出版社 1985年
28ページ 単行本収録:無し
・あらすじ
1808年11月、スペイン。
主人公マリア・ウォンチニスカは、半島戦争に男装して従軍し、ポーランド軽騎兵連隊に所属していた。
フランス軍はマドリードを目指す道中、狭い峠道に大砲を配置された要衝ソモシエラに行き当たる。
・登場人物
マリア・ウォンチニスカ
ナポレオンの愛人となったマリー・ワレウスカ夫人の従姉妹(ウォンチニスカはマリー・ワレウスカ夫人の旧姓)。
同じくお嬢様のはずなのだが、行軍中に物資調達をかってでるほどの元気娘。
スタさん(スタニスラフ・ソルジェニスキー? Stanislav Solzhenitsky)
マリアの同僚。
女が軍隊にいることに反対で、最初はお守りを押し付けられたと不満だったが……。
ナポレオン・ボナパルト
説明不要な僕らの皇帝陛下。
マリー・ワレウスカ夫人
ナポレオンがポーランドで作った愛人。
ベシェール
フランス帝国元帥。本編では名前が出てこないが、同作者の漫画『戦争と平和』と同じ外見である(サッシュと胸のグラン・クロワ章が目立つ)ことと、この時スペインにいて、第二軍団司令官を解任され、騎兵予備軍の指揮官とされていた状況から推測。
クラシンスキー
近衛ポーランド軽騎兵連隊の連隊長。
コツエトウルスキー
中隊長。マリアとスタさんの直属の上司。
マリアについては「お嬢様の気まぐれ、すぐに音をあげ帰るだろう」とスタさんに世話を押し付けた。
実際は第三大隊長コルィエトゥルスキー(Korjietulski)大尉?
・感想
いずれ紹介する『戦争と平和』同様、岸田恋先生はさすがのナポレオンマニアっぷりです。
「※タイトルは槍騎兵だけどこの時期近衛第一ポーランド槍騎兵連隊は近衛第一ポーランド軽騎兵連隊とよばれたのでだからこれは軽騎兵マリアなのでした」
おそらく響きの良さから槍騎兵にしたのでしょうが、当時の正式な呼称についても注で言及されています。
この戦闘後、活躍の見返りとして槍の装備が正式化され、タイトル通りの槍騎兵となります。
「どーしてイギリス製のブラウン・ベスもってるかっちゅーとイギリス人からもらったんです」
スペインゲリラの持っている銃にまで解説が。
ソモシエラの戦いは、概説的な本では名前すら出てこないこともあり、載っていても「ポーランド騎兵の突撃で勝った」で短く済ませているものもあります。
チャンドラーの『ナポレオン戦争』では、ナポレオンは最初に騎兵単独で突撃させ、それが撃退されたために、歩兵と騎兵を連携させて再度の突撃で成功させた、とあります。
最初の突撃で壊滅的打撃を受けた大隊が、マリアとスタさんの上司であるコルィエトゥルスキー率いる第三大隊なので、もしかすると二人は漫画のラストシーン(突撃開始)の後……。
きっと生き残って、成功した二度目の突撃にも参加した、と信じたいところです。
その功績でタイトル通りの『槍騎兵マリア』になったのだ、と。
入手手段ですが、国会図書館の複写依頼ができないか検索してみましたが、コンバットコミックは創刊号がなぜか抜けているように見えました(個別に問い合わせないと確定的なことはいえませんが)。
古書としては、ヤフオクや「日本の古本屋」で数冊確認できました(2011年2月25日現在)。
コンバットコミックの表紙はこちらです。
また、この号には矢野良太氏による 『モンゴル第44騎兵師団の突撃』という漫画も掲載されています。
1941年11月17日クリン南西の平原、モスクワを目指すドイツ軍とそれを阻むソ連軍の戦いで、ソ連騎兵2000名が十数門の砲列に正面突撃をかけ、榴弾と機銃で全滅するという話です。
ドイツ軍第106歩兵師団は死傷者ゼロという、戦闘というより集団自殺のような一方的展開だったようです。
16門の砲に向かって騎兵単独で正面突撃するシーンで終わる、槍騎兵マリアと合わせて読むことをオススメします。
いや、マリアたちは生き残ったはずですよ?
ラアルプ
アメデ=エマニュエル=フランソワ・ラアルプ Laharpe Amédée-Emmanuel-François(1754-1796)
1754年10月17日にスイスのロールで生まれた。
1773年にスイスの連隊に入り、先ずオランダで軍務に就き、それから祖国スイスに戻り働いた。
1781年5月、小銃兵連隊大尉。12月17日には擲弾兵大尉。
ヴォー州での暴動発生後はフランスに亡命。
1792年、ビッチュで少佐に昇進。
1793年1月14日、第35歩兵連隊の中佐となる。
アルプス方面軍に勤め、ついでトゥーロン攻囲に参加。
12月17日、バラスに臨時の半旅団長(連隊長、大佐)に任じられる。
12月20日、マッセナの下で臨時の旅団長となった。
1794年4月5日、オニールへの遠征に従軍。
8月29日、公安員会から正式に旅団長と認められる。
1795年8月16日、師団長に昇進。
11月23日から24日のロアノの戦いでは、マッセナの下で前衛の師団を指揮した。
1796年4月12日のモンテノッテの戦い、14日のミレッシモの戦いではともに勝利に貢献した。
5月7日ポー川を渡河。
5月8日コドーニョで野営。その夜、部隊の前哨がオーストリア軍の攻撃を受ける。
兵の混乱を収めるべく奮闘を続けていたラアルプは一発の銃弾に倒れた。
味方の誤射との説もある。
ラアルプ将軍の名はパリのエトワール凱旋門に今も記されている。
ボーリュー
ヨハン=ペーター・ボーリュー Beaulieu,Johann Peter(1725-1819)
ブラバン(現在のベルギー南部)出身。
18歳でオーストリア軍に入隊、七年戦争に参加し、ダウン元帥の幕僚となり名を上げた。
この間の功績によりマリア・テレジア大十字章を授けられ、男爵となった。
兄弟の三人もオーストリア軍人だったが、七年戦争とバイエルン継承戦争で全て失っている。
1789年、フランス革命に呼応して故郷ブラバンがオーストリアからの独立を図った際、屋敷に押し寄せた暴徒によって一人息子(養子との表記もあり)も亡くしている。
1792年4月29日、バランシェンヌ近郊で師団を指揮し、ビロン将軍率いるフランス軍を撃破。同年11月6日のジェマップの戦いでも左翼を指揮し勇戦した。
1794年4月にアールロンでジュールダンのフランス軍を破り、同年後半にクレアファイト将軍の参謀長となった。
師団長としてイタリアに転任し、1796年前半に北部イタリアのオーストリア軍総司令官となった。
しかしボナパルト将軍率いるフランス軍にモンテノッテやロディで大敗。
イタリアからチロルへ叩き出されると、6月に司令官職を辞し、リンツ近郊の所領に引退した。
1819年に死去。
美術品や建築に造詣が深く、皇宮の装飾に関与したこともあった。
自らも美術品を収集していたが、度重なる戦火のなか、そのほとんどは焼失あるいは略奪されたという。