漫画『戦争と平和』岸田恋
原作は中学生の頃に岩波文庫旧訳版をざっと読んだきりで、その後通して読んだことはありません。
家には数年前に出た全6巻の新訳版を積んでありますが、飛ばし読みしたところ格段に読みやすかったので、そのうち全部読もうと思います。
大筋を追うならソ連の映画(別途紹介します……そのうち)がオススメです。
そんなカンジで、原作についてはおぼろげな記憶をメインに書きますので、記述に間違いがあることが予想されます(いつか原作を読み込んだら記事修正する、の意)。
登場人物紹介では概略に加えて、漫画版での扱いについても付記します。
・作品情報
ハイコミック名作11『戦争と平和(上)』
作画:岸田恋 原作:トルストイ 構成:恋塚稔
学習研究社 1985年9月3日発行
192ページ 定価:530円
・作品情報
ハイコミック名作12『戦争と平和(下)』
作画:岸田恋 原作:トルストイ 構成:恋塚稔
学習研究社 1985年10月4日発行
200ページ 定価:530円
・あらすじ
舞台は19世紀初頭の帝政ロシア。1805年のアウステルリッツの戦いから1812年のロシア遠征まで、ナポレオン率いるフランスを相手にした戦争と平和の中、あるロシア貴族たちの興亡と恋愛を描いた群像劇。
・登場人物
ピエール・ベズウーホフ
主人公。ロシア一の大富豪キリール・ベズウーホフ伯の私生児。父に愛され財産と爵位を相続する。
近距離パワー型という設定や、フリーメーソン加入のくだりなど多数のエピソードをカットされる。
アンドレイ・ボルコンスキー
ピエールの親友。妻に先立たれ、その後ナターシャと婚約するも一方的に破棄される。
全てを振り切って立った戦場で致命傷を負い後送。そこで偶然再会したナターシャを赦して死んだ。
妻、妹、父、子の出番がことごとくカットされ、ボルコンスキー家の人間は彼以外登場しない。
そのため原作以上にとことん孤独で暗く、不幸な人物として描かれてしまっている。
ナターシャ・ロストフ
ヒロイン。ロストフ伯爵家令嬢。アンドレイと婚約するがアナトーリにたらし込まれて婚約を破棄。アナトーリにも捨てられ暗い性格に。仕方が無いこととはいえ、心理描写もとばし気味な漫画版では、原作以上に頭の弱い娘に見える。
ニコライ・ロストフ
ナターシャの兄。原作ではソーニャとアンドレイの妹の間でドラマを描く主要な登場人物なのだが、この漫画では出番はほとんどなく、アレクサンドル皇帝を見て頬を赤く染める変なホモにされていた。
エンディングを飾る二組の夫婦たちの一人なのだが、彼の妻となる女性は漫画版には登場すらしないというヒドイ扱い。
ソーニャ
ロストフ家に居候している親戚。幼少の頃よりニコライを一途に想っている。
しかし漫画版ではニコライがらみのロマンスがほとんどカットされているため、出番は少ない。
アナトーリ・クラーギン
ピエールの親戚にして放蕩仲間。
遊びでナターシャを誘惑し、アンドレイとの中を裂く。
原作ではその後アンドレイとお互い致命傷を負った状態での再会シーンがあるのだが、漫画では全削除され、人知れず退場。
エレン
アナトーリの妹。財産目当てでピエールと結婚する。
原作ではあれこれ悪巧みをするのだが、漫画では別居以降はほとんど登場せず、ラストで「死んだ」とだけおざなりに書かれた。
ドロホフ
ピエールの放蕩仲間。気性が荒く、戦場で活躍して昇格してもすぐに問題を起こし降格させられている。
ピエールとの決闘シーンも、ロシア遠征終盤での救出シーンもきちんと描かれ、出番的には恵まれている。
アレクサンドル一世
ロシア皇帝。頭髪の増量は控えめ。出番も少なめ。
ビュックスホフデン
『獅子の時代』でミンチにされたブクスホーデンさん。
本作中でも他のページでは「ブックスホウデン」と書かれたり、オーストリア軍の所属にされたりと、名称も立場も一定しない悲運の将。
ネルソン
イギリスの提督。
ナポレオンがトラファルガーの敗報を聞くシーンで1コマだけ登場。
ナポレオン
説明不要のぼくらの皇帝陛下。
ランヌ
皇帝のホモ友。上巻のみの登場だが、優遇され出番多数。アウステルリッツの戦いでは主役級の活躍を見せた。
ダヴー
漫画版の影の主人公。
上巻ではアウルテルリッツ、下巻ではロシア遠征全般に登場。
皇帝を抱きしめたりフリアンにヤキモチを焼かれたり、漫画作者の趣味全開。
フリアン
ダヴーと対をなす影のヒロイン。
・感想
きりがないので人物はここで切りますが、この他にもロシア軍はクツーゾフやバグラチオンが、フランス軍ではベルティエやミュラ、スルトにベシェールやネイのほか、サヴァリやセギュール、モランやコンパンなんてところまで出てきます。逆にアンドレイの妻や妹は1コマも出てきません(妻の死に言及するだけ)。
作中で各キャラが描かれたコマ数を算出してみました。
表記は、
人物名:総コマ数(上巻コマ数+下巻コマ数)
と、なっています。
ピエール:256 (112+144)
アンドレイ:138 (84+54)
ナターシャ:96 (24+72)
クツーゾフ:44 (25+19)
アレクサンドル:32 (24+8)
バグラチオン:25 (12+13)
ブクスホーデン:7 (7+0)
バルクライ:13 (0+13)
ネルソン:1 (1+0)
ナポレオン:155 (89+66)
ダヴー:198 (36+162)
フリアン:90 (16+74)
ランヌ:75 (75+0)
ミュラ:41 (37+4)
スルト:21 (21+0)
ベシェール:22 (18+4)
ベルチエ:16 (9+7)
ネイ:3 (2+1)
歴史上の大人物であるナポレオンの登場コマ数が主人公並みに多いのはわかりますが、上巻でのランヌ、下巻でのダヴーとフリアンの目立ち方は異常です。
下巻ではダヴーが主人公でフリアンがヒロインです。
戦争・戦闘シーンの描写は、上巻のウルムからアウルテルリッツなどで192ページ中100ページ。
下巻のロシア遠征全体で200ページ中のおおよそ110ページほど。
まさに『戦争と平和』のタイトル通り、全体の半分くらいが戦いですね。
『獅子の時代』でも描かれたアウステルリッツにおけるダヴー率いる右翼部隊の防戦も、
丁寧にページを使って描写されています。
小説『戦争と平和』のコミカライズとしてはちょっと評価に困りますが、ナポレオニック漫画としては一級品だと思います。
入手方法ですが、四半世紀前の絶版漫画であり、流通量も少ないのかネットを巡回しても足で探しても滅多に遭遇できません。
国会図書館でも検索にかかりませんでした。
私は10年近く前に今は亡きEasySeekの探し物登録で入手しましたが、例えばヤフオクではこの7年程で2、3件の出品があっただけで、いずれも高額で終了していた覚えがあります。
最後に、学研の担当や構成の恋塚氏のチェックが緩かったのか、岸田先生の別の趣味も漫画内に散見されます。
ナポレオンがランヌを看取るシーン。
ティルジットの和約でナポレオンとアレクサンドルが抱擁するシーン。
巻末のおまけカット。
男の娘ならいけるんだが。
家には数年前に出た全6巻の新訳版を積んでありますが、飛ばし読みしたところ格段に読みやすかったので、そのうち全部読もうと思います。
大筋を追うならソ連の映画(別途紹介します……そのうち)がオススメです。
そんなカンジで、原作についてはおぼろげな記憶をメインに書きますので、記述に間違いがあることが予想されます(いつか原作を読み込んだら記事修正する、の意)。
登場人物紹介では概略に加えて、漫画版での扱いについても付記します。
・作品情報
ハイコミック名作11『戦争と平和(上)』
作画:岸田恋 原作:トルストイ 構成:恋塚稔
学習研究社 1985年9月3日発行
192ページ 定価:530円
・作品情報
ハイコミック名作12『戦争と平和(下)』
作画:岸田恋 原作:トルストイ 構成:恋塚稔
学習研究社 1985年10月4日発行
200ページ 定価:530円
・あらすじ
舞台は19世紀初頭の帝政ロシア。1805年のアウステルリッツの戦いから1812年のロシア遠征まで、ナポレオン率いるフランスを相手にした戦争と平和の中、あるロシア貴族たちの興亡と恋愛を描いた群像劇。
・登場人物
ピエール・ベズウーホフ
主人公。ロシア一の大富豪キリール・ベズウーホフ伯の私生児。父に愛され財産と爵位を相続する。
近距離パワー型という設定や、フリーメーソン加入のくだりなど多数のエピソードをカットされる。
アンドレイ・ボルコンスキー
ピエールの親友。妻に先立たれ、その後ナターシャと婚約するも一方的に破棄される。
全てを振り切って立った戦場で致命傷を負い後送。そこで偶然再会したナターシャを赦して死んだ。
妻、妹、父、子の出番がことごとくカットされ、ボルコンスキー家の人間は彼以外登場しない。
そのため原作以上にとことん孤独で暗く、不幸な人物として描かれてしまっている。
ナターシャ・ロストフ
ヒロイン。ロストフ伯爵家令嬢。アンドレイと婚約するがアナトーリにたらし込まれて婚約を破棄。アナトーリにも捨てられ暗い性格に。仕方が無いこととはいえ、心理描写もとばし気味な漫画版では、原作以上に頭の弱い娘に見える。
ニコライ・ロストフ
ナターシャの兄。原作ではソーニャとアンドレイの妹の間でドラマを描く主要な登場人物なのだが、この漫画では出番はほとんどなく、アレクサンドル皇帝を見て頬を赤く染める変なホモにされていた。
エンディングを飾る二組の夫婦たちの一人なのだが、彼の妻となる女性は漫画版には登場すらしないというヒドイ扱い。
ソーニャ
ロストフ家に居候している親戚。幼少の頃よりニコライを一途に想っている。
しかし漫画版ではニコライがらみのロマンスがほとんどカットされているため、出番は少ない。
アナトーリ・クラーギン
ピエールの親戚にして放蕩仲間。
遊びでナターシャを誘惑し、アンドレイとの中を裂く。
原作ではその後アンドレイとお互い致命傷を負った状態での再会シーンがあるのだが、漫画では全削除され、人知れず退場。
エレン
アナトーリの妹。財産目当てでピエールと結婚する。
原作ではあれこれ悪巧みをするのだが、漫画では別居以降はほとんど登場せず、ラストで「死んだ」とだけおざなりに書かれた。
ドロホフ
ピエールの放蕩仲間。気性が荒く、戦場で活躍して昇格してもすぐに問題を起こし降格させられている。
ピエールとの決闘シーンも、ロシア遠征終盤での救出シーンもきちんと描かれ、出番的には恵まれている。
アレクサンドル一世
ロシア皇帝。頭髪の増量は控えめ。出番も少なめ。
ビュックスホフデン
『獅子の時代』でミンチにされたブクスホーデンさん。
本作中でも他のページでは「ブックスホウデン」と書かれたり、オーストリア軍の所属にされたりと、名称も立場も一定しない悲運の将。
ネルソン
イギリスの提督。
ナポレオンがトラファルガーの敗報を聞くシーンで1コマだけ登場。
ナポレオン
説明不要のぼくらの皇帝陛下。
ランヌ
皇帝の
ダヴー
漫画版の影の主人公。
上巻ではアウルテルリッツ、下巻ではロシア遠征全般に登場。
皇帝を抱きしめたりフリアンにヤキモチを焼かれたり、漫画作者の趣味全開。
フリアン
ダヴーと対をなす影のヒロイン。
・感想
きりがないので人物はここで切りますが、この他にもロシア軍はクツーゾフやバグラチオンが、フランス軍ではベルティエやミュラ、スルトにベシェールやネイのほか、サヴァリやセギュール、モランやコンパンなんてところまで出てきます。逆にアンドレイの妻や妹は1コマも出てきません(妻の死に言及するだけ)。
作中で各キャラが描かれたコマ数を算出してみました。
表記は、
人物名:総コマ数(上巻コマ数+下巻コマ数)
と、なっています。
ピエール:256 (112+144)
アンドレイ:138 (84+54)
ナターシャ:96 (24+72)
クツーゾフ:44 (25+19)
アレクサンドル:32 (24+8)
バグラチオン:25 (12+13)
ブクスホーデン:7 (7+0)
バルクライ:13 (0+13)
ネルソン:1 (1+0)
ナポレオン:155 (89+66)
ダヴー:198 (36+162)
フリアン:90 (16+74)
ランヌ:75 (75+0)
ミュラ:41 (37+4)
スルト:21 (21+0)
ベシェール:22 (18+4)
ベルチエ:16 (9+7)
ネイ:3 (2+1)
歴史上の大人物であるナポレオンの登場コマ数が主人公並みに多いのはわかりますが、上巻でのランヌ、下巻でのダヴーとフリアンの目立ち方は異常です。
下巻ではダヴーが主人公でフリアンがヒロインです。
戦争・戦闘シーンの描写は、上巻のウルムからアウルテルリッツなどで192ページ中100ページ。
下巻のロシア遠征全体で200ページ中のおおよそ110ページほど。
まさに『戦争と平和』のタイトル通り、全体の半分くらいが戦いですね。
『獅子の時代』でも描かれたアウステルリッツにおけるダヴー率いる右翼部隊の防戦も、
丁寧にページを使って描写されています。
小説『戦争と平和』のコミカライズとしてはちょっと評価に困りますが、ナポレオニック漫画としては一級品だと思います。
入手方法ですが、四半世紀前の絶版漫画であり、流通量も少ないのかネットを巡回しても足で探しても滅多に遭遇できません。
国会図書館でも検索にかかりませんでした。
私は10年近く前に今は亡きEasySeekの探し物登録で入手しましたが、例えばヤフオクではこの7年程で2、3件の出品があっただけで、いずれも高額で終了していた覚えがあります。
最後に、学研の担当や構成の恋塚氏のチェックが緩かったのか、岸田先生の別の趣味も漫画内に散見されます。
ナポレオンがランヌを看取るシーン。
ティルジットの和約でナポレオンとアレクサンドルが抱擁するシーン。
巻末のおまけカット。
男の娘ならいけるんだが。