なぽれぼ

ナポレオンとフランス革命について色々

漫画『青年ナポレオン』長谷川哲也

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・作品情報
『青年ナポレオン』 長谷川哲也
月刊COMICトムプラス 潮出版社
1999年5月号~2000年12月号(全20話)
表紙2回(1999年5月号、2000年2月号)
巻頭カラー1回(1999年5月号)
計609ページ 単行本収録:無し

・あらすじ
1805年、少年時代を過ごしたブリュエンヌ幼年学校を訪れる皇帝ナポレオン。
荒廃した学校で何故か当時のままに手入れをされた『皇帝の花壇』を見つけ、ナポレオンは秘書ブーリエンヌと語らい記憶を辿り始める。
幼年学校時代の回想後は革命勃発まで時間が進み、パオリとの決別、トゥーロン攻略、ロベスピエール処刑、パリ市街での王党派への砲撃を経て、最後はイタリア遠征におけるロディ橋の勝利の後、呼び寄せたジョゼフィーヌを自ら迎えるシーンで終了している。

・登場人物(主に同作者『獅子の時代』との相違点について記述)

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ナポレオン
説明不要のぼくらの皇帝陛下(皇帝なのは1話のみ)。

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ジョゼフィーヌ
未来の皇妃。連載中顔がコロコロ変わっている(画像は最終話の一番美人なカット)。

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ブーリエンヌ
ナポレオンの秘書。幼年学校の同級生。

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ジュノー
トゥーロンの廃屋でナポレオンと出会う点は『獅子の時代』と同じ。ほとんど台詞がないが、口調は普通。

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マルモン
トゥーロン攻略戦以降ナポレオンに付き従う狙撃の名手。
獅子の時代』と違い、ジョゼフィーヌを説得する役をさせられロディの突撃に参加できなかった。

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ミュラ
未来のナポリ王。ちょっと目を離すと人を斬ったり殴ったりしている。

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ベルティエ
参謀。ヴィスコンティ夫人に傾倒する1カットあり。

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オージュロー
本作では口調がまともで、ちゃんと制服も着ている(むしろオシャレであり、史実寄り)。

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マッセナ
石鹸カッターを入手できなかったためか、強欲の赤マント…と呼べるようなハジけたエピソードは無し。

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ロベスピエール
オプションの犬と鳥は登場せず。童貞発言も無し。10話で退場。

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サン=ジュスト
たまにサン=ジェストと誤植されている。
10話で突如バキみたいな絵柄になって暴れまくった。

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フーシェ
リヨンでの活躍は無く、国王処刑投票での風見鶏シーンも無し。
ロベスピエール処刑までの暗躍も描写は乏しく、子供の墓参りエピソードもカット。
陰謀キャラだがあまり凄みが感じられないという結果に。

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バラス
包帯や義手や投げナイフといった面白ギミックは一切無し。
前半はロベスピエールに、後半はナポレオンにただビビっている。

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ビクトル軍曹
たぶん別人二十八号。

・感想

獅子の時代』と比べると登場しないキャラも多く、軍人としてはランヌダヴー、ベシェール、スーシェ、ヴィクトール、セリュリエ、ルクレール、それ以外ではタレイランクートン、敵ではネルソンなどが出ません。
イタリア遠征の敵将も無個性な顔の名無し将軍です。

全体として史実のエピソードを「常識的な範囲内で」膨らませて漫画にしている印象が強いです。
獅子の時代』と共通するエピソードも多くあるのですが、例えば「恐れを知らぬ男たちの砲台」の話では、男たちが顔を見合わせてから先を競う描写はなく、ただ「いい名前だ気に入った」と兵士がナポレオンに言うにとどまり、ウジェーヌが父親の剣の返却を求める話では、ミュラが出てこないため「広報にも使える話だ」と普通に剣を返してしまいます。

革命家や元帥たちのキャラもそれほど深くは掘り下げられず、行動・言動ともにおとなしめです。

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ミュラは『青年ナポレオン』でも権力志向の伊達男なのですが、それだけという印象でした。

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獅子の時代』では女にお前は空っぽだと言われ、それを自分でも自覚している風で、野心と現実のギャップに苦悩するような内面の弱さが見え、人間味が出てきたように思います。

『青年ナポレオン』も単体で読むと安定した面白さがあるのですが、改めて『獅子の時代』と読み比べると、読者を引き込む力が格段に増しているのが分かります。
個人的には資料にきちんとあたった上で漫画的アレンジを強烈にきかせる『獅子の時代』方向への転換は、英雄達の偉大さと、何より異常さが分かりやすく伝わるので成功だったんじゃないでしょうか。

ちょうど半分にあたる10話でロベスピエールたちが退場するのですが、
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『青年ナポレオン』ではクートンが登場せず、サン=ジュストがバラスに飛び蹴りを浴びせた後、ただ一人素手で奮闘します。

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一方の『獅子の時代』ではクートンとサン=ジュストが銃砲の火力でロベスピエールを守ろうとするものの、

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奮闘むなしくたかがメインカメラをやられてしまいました。

サン=ジュストと言えば『青年ナポレオン』では、バラスがカルトーを「サン=ジュストが無能な将軍の首を切って回っている、ここにも来るかもな」と嘘で脅して辞めさせデュゴミエと交代させるのですが、『獅子の時代』ではバラスと一緒にサン=ジュストがやって来て、数年越しで本当になったりしています。

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あと、イタリア遠征中にナポレオンが抜擢した人物の中にビクトルという軍曹がいました。
ビクトルと兵士のやり取りを見て、目端が利きそうだと評価しての人事です。
中隊長ということは軍曹から大尉へ特進ですね。

入手方法ですが、単行本にはなっていないため、雑誌を入手するしかありません。
『1812─崩壊─』掲載のアワーズと同じく、オークション等でセット売りのトムプラスを地道に探すか、国会図書館での複写依頼で妥協するかです。
以前の国会図書館のシステムではたどり着くのが面倒でしたが、今はキーワード検索で「トムプラス」と入れれば、数手で複写依頼画面までいけます。

少年画報社から単行本でも出てくれればとは思いますが、完全版のような『獅子の時代』がある状態で出しても、はせがー先生ご本人が携帯配信の話が来た際に「コピー代すら取れないだろう」と言ってるように、単行本化の採算が取れないのかもしれません。
『1812─崩壊─』の記事でも書きましたが、そういった予測しかされない現状を、『獅子の時代』『覇道進撃』を応援することで変えていくしかありませんね。

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ラストページ。
「僕たちは歴史になるんだ!」
この『青年ナポレオン』終了から一年半の後に読み切り『1812─崩壊─』、さらに半年ほどで『ナポレオン 獅子の時代』の連載へと繋がっていきます。